■魔人学園大パニック!:その3■ |
「あ〜あ、きっと醍醐達待っているだろうなぁ」 屋上への階段を上りつつ、龍麻はぼやいた。醍醐の言う通り、龍麻はなんだかんだ言いつつも、みんなと会えるのが嬉しいので、壬生と一緒に屋上へと向かっているのだ。 「そうだね。もう一時半を過ぎてしまっているし。もう始まっているんじゃないか?」 「…言えてるな。ま、食う物は俺と紅葉で買ってるから、もし、みんながいなかったら、俺達だけで食べようぜ。二人っきりで申し訳ないんだけどさ」 「…いや、別に構わないよ」 返事する壬生の顔を急に龍麻がのぞき込むと、壬生は驚いたように少し目を見開き、 「なんだい、龍麻?」 「…一瞬、紅葉の顔が嬉しそうに見えた…」 「……」 龍麻の言葉に黙り込む壬生。龍麻は壬生の反応を図星だと判断すると照れながら、 「俺と二人っきりになっても面白くないと思うんだけどな」 「いや、君の側にいるという事に意味があるんだよ」 「そうなのか?」 「ああ」 即答し、真剣な眼差しで自分の顔を見る壬生に龍麻は言いしれぬ不安を感じた。 (も、もしかして、紅葉まで…?) 不安というよりも寒気を感じる。 「龍麻」 「えっ?ど、どうした、紅葉?」 壬生に呼ばれ、動揺し言いごもる龍麻。そんな龍麻の考えていることを完全に見通しているかのような顔で壬生は屋上に着いたと龍麻に告げた。 「あっ、そっか」 屋上へのドアのノブを龍麻がゆっくり回しながら、ドアを押し開けつつ屋上へと入ると、人どころか食べ物一つない、コンクリートの広場が二人を迎えた。 「……」 「…いないみたいだね、龍麻」 龍麻の背後で小さく呟く壬生の声に、再び寒気を感じながらも龍麻はこの状況を把握し始めた。 (えっと、いないんだよな、みんな…。どこに行ったんだろう?しかも、この状態はやばそうな気がするんだよな…。紅葉の様子が何だかおかしいし…) 「龍麻…龍麻、聞いているかい?」 「へっ?」 壬生に肩を揺さぶられ龍麻が我に返ると、心配げな壬生の目が龍麻を見つめていた。 「な、何、紅葉?」 「…そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は蓬莱寺君達と違って、節操なしじゃないからね。それに…」 最後まで壬生の言うことを聞かず、龍麻は不敵に笑う壬生の顔に自分の不安が完全に的中したことを悟った。 (やっぱり紅葉まで?俺、紅葉のこと結構好きだったのにぃぃぃ!) 泣き出したい気持ちを堪え、龍麻は壬生に言い返した。 「お、俺はそういう趣味ないからなっ」 龍麻の言うことに壬生は一瞬首を傾げたが、龍麻の言いたいことが分かり失笑した。 「…?ああ、そう言うことかい?龍麻、最後まで僕の言ったことを聞いていたかい?」 「へっ?」 拍子抜ける龍麻に壬生は少し呆れながらも、 「どこまで僕の話を聞いていたんだい?」 「『節操なしじゃないから』まで…」 申し訳なさそうに答える龍麻。 「龍麻、話は最後まで聞いてくれ。その後僕は『それに、僕はそういう趣味は持ち合わせていないから』と言ったよ?」 「な、なぁんだ。驚かすなよ、紅葉ぁ」 安堵した龍麻はふらりと壬生にもたれかかった。 「龍麻?」 「俺、てっきり紅葉も京一達と同じかと思ったよ」 壬生の肩に顔を埋める龍麻。そんな龍麻を壬生は愛おしげに見ながら、小さく呟いた。 「でも、龍麻の側にいたら蓬莱寺君達の気持ちも分からないでもないけどね」 「!」 龍麻は飛ぶように壬生から離れると、顔を青白くさせ、口を金魚のようにパクパクさせると、額から冷や汗を滝のように流した。 そんな龍麻を表情一つ変えず壬生は見つめたまま、口を開いた。 「…冗談だよ、龍麻」 「紅葉が言うと、冗談になんねーよ…」 二人はしばらく顔を見合わせると、小さく笑いあった。
「おせぇ、ひーちゃん」 とこちらは、京一。京一達は龍麻が来るのをずっと待っているのだが、当の本人はいっこうにやって来る様子はない。 「どこほつき歩いてるんだ、あいつ」 「…確かにな。もうこっちへ来てもおかしくはないんだがな」 と醍醐も流石に不安そうに辺りを見回した、その時。突拍子もなく、劉が大声を上げた。 「ああっ!あれ、アニキやないか?」 「えっ、どこですか?」 劉の視線の先、反対側の屋上に龍麻と壬生の姿が見える。京一達はその二人の姿を確認すると騒ぎ出した。 「あっ、本当だ!龍麻先輩ですよ!」 「なんであんなところにひーちゃんがいるんだよ?しかも壬生まで一緒じゃねーか」 「さあね。壬生がいると言うことは、二人で話そうとでも思ってたんじゃないか?誰かさんのお陰で龍麻もこっちに来るのが嫌になったんだろう」 と面白くなさそうな顔で如月が言うと、隣で村雨が、 「いや、龍麻のことだ、壬生と話し込んで屋上間違えたんだろ」 「それはあり得るな」 苦笑する醍醐。と不意に醍醐が京一達を見ると、なんとこの三人組はこともあろうに、フェンスによじ登っている! 「おい!京一、劉、霧島危ないぞ!降りろっ!」 「ひーちゃんがあっちにいるんなら、俺も行く!」 「フェンスを越えるつもりか?危ないからよせ、京一!」 「ひーちゃん待ってろよ!」 「アニキ待っててや!」 「龍麻先輩、すぐに行きますっ!」 「…聞いちゃいねーな、あのバカどもは。ま、〈力〉を使わなかっただけでもマシだろうけどな」 唖然とする醍醐の隣で京一達の姿を見ながら、呆れる村雨。醍醐は手を額に当て、頭を振ると、 「もう俺は知らんからな…」 と力無く呟いた。 「ひーちゃん、ひーちゃん!」 校舎が逆コの字型なので、両先端の距離は約五十メートル位。『コ』の先端から角にあるフェンスを越えると龍麻達のいる屋上へと一直線なのだが、危ないことこの上ない。フェンスは高さ二メートル以上はあり、万が一落ちたとしても落下先は屋上のコンクリートの床なので、骨折するかあるいは頭の打ち所が悪くてあの世行きだ。 「ひーちゃん!」 京一の呼び声が聞こえたのか、龍麻は後ろへと振り返ると京一達の姿を見るなり愕然とした。 「きょ、京一?お前何やってんだ?劉、諸羽までっ?」 「ひーちゃん、今から行くからな!」 龍麻の問いかけを京一達は聞いていない様子で、必死にフェンスを越えようとしている。 「あわわっ、危ないっ、京一っ!」 京一の危険をあたかも自分の危険のように感じた龍麻はフェンスに走り寄り、手を差し伸べた。 「ほらっ、早くっ」 「わりぃ、ひーちゃん」 既に半分以上フェンスを京一達が昇っていたので、龍麻はあえて降りるように言わず、越えてくるようにし向けた。 「よっ…と」 龍麻の手を取り、京一はフェンスの途中からジャンプ着地。 「全く危ないぞ、京一」 「わりィ。でも、ひーちゃんが悪いんだぜ?いつまでたっても来ねーからさ」 京一の言葉に龍麻は周りをゆっくりと見回すと、いつも行く屋上とは違うのに今更気が付いた。 「え?こっちの屋上じゃなかった?…な。悪い、京一俺が間違えてたみたいだ」 「ならしょうがねーな」 京一に龍麻は笑って謝ると、劉達がちょうどフェンスから降りようとしていたので龍麻は二人にも手を差し伸べた。 「あっ!諸羽っ、劉!ほら、手を!危ないぞっ」 「龍麻先輩!」 「アニキ!」 霧島も京一と同じように龍麻の手を握り、ジャンプして着地。…したのはよかった。劉は龍麻の手をつかもうとせず、フェンスを軽く蹴ると龍麻へと飛びかかった! 「アニキぃぃ〜」 「えっ?わっ!劉、危な…」 『い』と言い切るまでに、劉は龍麻へと見事に抱きつき、その勢いで龍麻は床に倒れ込んでしまった。当然、頭を強く打って。 ごんっ。 「ひーちゃん!」 「龍麻先輩!」 「龍麻!」 さっきまで黙っていた壬生でさえ、顔を青くして倒れた龍麻の側に駆け寄った。龍麻はというと、劉に抱きつかれたまま動かない。 「アニキ、大丈夫か?」 龍麻に乗ったままで、劉は心配げに龍麻を見つめた。 「大丈夫なワケねーだろ!劉、どけっ!ひーちゃん大丈夫か?」 「龍麻先輩、しっかりして下さい!」 喚く三人を横目に、壬生はふぅっと呆れの息をついた。 「どうした、京一!」 「龍麻!」 「おい、どーなってんだ」 買い出しの荷物を抱えた醍醐、如月、村雨の三人は、龍麻のいる屋上へたどり着くなり目を見開いた。京一、劉、霧島はなんだか慌てている。壬生は辺りにいない。 「劉がひーちゃんに抱きついて、それでひーちゃんが頭を打って、目を覚まさないんだよ」 「はぁ?お前、自分が言ってること分かっているのか?もう少しわかりやすく説明しろ、京一」 京一の訳の分からない説明に醍醐は困りながらも、龍麻の顔をのぞき込んだ。龍麻は眠ったように床に寝ていて、こんなに仲間が騒いでいるに関わらず目を覚まさない。 「おいおい、どーなって…」 村雨も状況が把握できず困っていると、霧島が口を開いた。 「フェンスを越えようとしていた劉さんが、龍麻先輩に抱きついてしまったんですよぉ。それで龍麻先輩が床に頭を強くぶつけてしまって、目を覚まさないんです」 「なっ、なにィィ!」 霧島の言葉に醍醐、如月、村雨の三人は声をハモらせ愕然とした。 「龍麻!」 荷物を村雨に預け、駆け寄る如月。如月は髪を振り乱しながら、龍麻に声をかけた。 「龍麻っ、龍麻っ、しっかりしてくれ!」 「無駄だぜ、如月。さっきから何やっても目ェ覚まさねぇんだ」 力無く答える京一を如月は睨んだ。 「無駄って、君達がフェンスを越えようとしなければ、こんなことにはならなかったんだろう!」 「そ、そりゃそうだけどよ…」 怒る如月にだじろぐ京一、劉。 「…如月さん。多分、大した怪我ではないと思いますよ」 「壬生?」 如月が背後に振り返ると、そこには濡れたタオルと『救急箱』と書かれた木箱を持った壬生の姿があった。どうやら、保健室に行っていたらしい。 「失礼…」 そう言って壬生は龍麻の側に腰を下ろし正座すると、龍麻の頭を膝に乗せ、醍醐に水を頼んだ。 「これでいいか、壬生?」 醍醐は買い出しの中からミネラルウォーターのボトルを取り出すと、紙コップへと注ぎ壬生へと手渡した。 「ええ。すみません」 と壬生は救急箱から小さな粉袋を取り出すと、紙コップの水に粉を流して溶かした。 「で、これを…」 壬生は片腕で龍麻の頭を持ち上げる、口を小さく開けさせ、水を流し込んだ。 「……」 息を飲む一同。と、しばらくすると龍麻の瞼が小さく痙攣し、龍麻が水を飲んだショックでむせかえった。 「ごほっ、ごほっ」 意識が戻ったことに喜んだ一同は、ほっと安堵の息をついた。龍麻もそのざわめきにゆっくりと眩しそうに瞼を開き始めた。 「ん…?」 「アニキ!」 「ひーちゃん!」 「龍麻先輩!」 またもや三人が嬉しさのあまり襲いかかる! 「ちょっと待った!お前達はちょっと離れてろ!」 醍醐は三人の襟首をつかむなり、ポイッと三人を後ろへ放り投げた。後ろで「アイヤー」という劉の声があっという間に聞こえなくなる。 「大丈夫かい?龍麻」 「おい、生きてるか?」 心配げな如月と、苦笑混じりの村雨が視界に入ると、龍麻は目を見開き、 「…あれ?俺どうしてたんだっけ?」 「劉に抱きつかれて、頭打ったんだよ」 「あ!そうなんだよ。劉に突然抱きつかれて、バランスとれなくなって、視界が突然真っ暗に…って、俺気ぃ失ってた?」 「ああ。大丈夫かい、龍麻…」 「そんな顔するなって。大丈夫だよ、翡翠。ちょっと頭が痛いけどな」 「そっか。なら良かった…」 苦笑いを浮かべる龍麻に安心したのか、如月は安堵した顔で龍麻に起きるよう促した。 「起きれそうかい?」 「ん、大丈夫…あ、紅葉。もしかして、紅葉が手当してくれたのか…って、あいたたたっ」 起きあがりつつ龍麻は膝枕をしてくれた壬生に声をかけたが、頭の痛みでまともに最後まで言えず、後頭部を手で押さえると、その場にうずくまった。 「手当したわけじゃないよ。気付け薬を飲ませただけだから。…大丈夫かい?」 「あ、ああ…。でも、頭がちょっと痛い…」 龍麻の手を壬生がそっとどけると、頭をのぞき込んだ如月が声にならない悲鳴を上げた。 「……!こぶが出来ているじゃないか」 「おーお、これまたでかいな」 如月の背後から龍麻の頭を見て、村雨も驚いた。 「保健室から薬を貰っておいて良かった。龍麻、染みるけど我慢してくれ」 「えっ?って、あた、あたた…」 壬生は素早く龍麻の背後に回り、膝を立てて向かい合うと、救急箱からチューブを取り出し、キャップを回して開けると、軟膏を手に取り龍麻のこぶに塗り込んだ。 「あっ、いた、いたっ。紅葉、もう少し優しく…」 「これぐらい我慢するんだね」 「我慢って、いた、いたたた…。もう少し優しくしてくれよ、紅葉」 「これ以上は無理だよ。これでよし、と…」 壬生は薬を塗り終わると、タオルを龍麻のこぶにあてた。 「これで冷やしておくといいよ。さて、これからどうするんだい?」 「へ?」 壬生の言葉に龍麻はタオルを押さえながら辺りを見回すと、みんなそろっており、京一や劉、霧島もいつの間にか戻ってきている。 「もう、二時なんだよ。どうする?龍麻」 如月が龍麻に話しかけると、龍麻はみんなを伺い見つつ、 「そんな時間かぁ。…あと少ししか時間ないけど、いいかな?今から始めても…」 「いいぜ、それくらいよ」 と村雨がみんなの気持ちを代表して答えた。 そして、京一や壬生、龍麻が買い込んできた出店の食べ物、芙蓉からの差し入れ、醍醐、如月が買ってきた飲み物を囲むようにして紅葉見物と歓談会は始まった。 「全く、当の目的を果たすまでに、すっごい時間がかかったなぁ…」 しばらくして、龍麻はなんだか疲れたと呟きつつ立ち上がると、フェンスにもたれグランドを眺めた。 間違いじゃなかったな。 龍麻は屋上から見える紅葉を眺めつつ、そう思った。 目的の仲間達の親睦は、後ろで騒いでいるみんなの声を聞いて龍麻は笑みを浮かべた。 そして、龍麻は瞼をゆっくりと閉じた。今まで色々な事があった。大切な物を護ろうとする仲間達との出会いや自分の信念を貫こうとする者との戦い。 でも、その戦いも終わろうとしている。龍麻はゆっくりと瞼を開けると、下に広がる紅葉の木を眺めた。きっと、決戦の日は近い。そう身に感じた龍麻は何故だかみんなの顔を見たくなったのだ。 「ひーちゃん」 「ん?」 フェンスによりかかる龍麻の側に京一がふらりとやって来た。 「その、あれだ、悪かったな、さっき」 申し訳なさそうに京一がそう呟く。 「あ、あれ…」 龍麻も京一に言われて思い出す。きっと、あの出店の騒ぎのことだろう。 「気にしなくていいよ、京一。別に怒っちゃいないしな」 「そっか、…へへっ、心配して損したぜ」 笑う京一につられ、龍麻も笑う。そして、不意に京一の顔が真剣な表情へと変わる。 「なぁ、ひーちゃん」 「ん?」 「頑張ろうな」 「!」 「その、あれだ、なんでもかんでもあんまり一人でしょいこむなよ?お前ってそういうとこあっからよ。俺達がいるんだ、少しは頼ってくれよ」 「京一…」 照れる京一を龍麻は思わず見つめてしまった。 気づいていたのか…。 龍麻は京一の観察眼に舌を巻きそうになった。 「朝からなんだかぼーっとしてたからよ、ちょっと心配だったんだけどな」 「…ありがとう、京一」 「え?あ、いや、大したことじゃねーよ」 言い詰まる京一に龍麻は微笑みながら、 「なんだかみんなの顔を見たら、元気になったし、大丈夫だよ」 「ひーちゃん…。俺はずっとそばにいるからなっ。ひーちゃんに何があっても、俺はずっとそばにいるからなっ。俺はひーちゃんの味方だからな」 「京一…」 強く言い放った京一の言葉に全員が龍麻の方に振り返り、立ち上がった。 「ああ。僕もずっと君の側にいるよ、龍麻」 「翡翠」 「当然だ。最後まで一緒だからな」 「醍醐…」 「そうですよ、龍麻先輩。最後まで僕もご一緒させて頂きます!」 「諸羽…」 「へっ、ま、頑張れよ。俺もそばにいっからよ」 「祇孔」 「そうやで、アニキ!わいもずっとそばにおるで!」 「…劉」 龍麻は自分を囲む面々をゆっくりと見渡した。そして、 「紅葉…」 龍麻の自分を見つめる瞳を壬生は見返しつつ、 「僕もいるよ、龍麻。僕の力が必要な時はいつでも呼んでくれ」 壬生の精一杯の言葉。 「…ありがとう、みんな」 微笑む龍麻に全員は軽く頷き返した、まではよかった。 「ア〜ニ〜キ〜」 「劉?」 シリアスな空気をぶち破るように、劉が龍麻に抱きついた。他のメンバーは「ああっ」と声を一斉に上げた。 「アニキ、わい、アニキ大好きや!ずっと、ずっとアニキの側におるでっ」 「え…?あ、ありがとう、劉」 自分の胸で甘える劉を龍麻は困惑しながら見つめた。 「劉、いい加減にしろよ!」 と京一は劉を龍麻から引き離すと、龍麻を自分の胸の中へと引き寄せ抱きしめた。 「きょ、京一?」 「ひーちゃん…俺、お前のこと…」 「駄目ですよ、京一先輩っ!」 「あかんで、京一はん!」 京一に抱きしめられたまま、龍麻は背後から霧島と劉に抱きつかれた。 「も、諸羽っ?」 頭だけ後ろに向くと、霧島が目を潤ませて龍麻を見つめている。 「龍麻先輩、僕…」 (まずい!再び、俺ピンチ!) と龍麻がダウン寸前の顔をすると、今度は如月もの凄い形相で京一に叫ぶ。 「龍麻を離せ、蓬莱寺!」 「やなこった」 舌を出す京一に如月は更に顔を顰めると、側にあった袋から短刀を取り出した。 「えっ、翡翠それ…もしかして…」 京一の腕の中で呻く龍麻の声は如月には完全に届かなかったようだ。如月は短刀を引き抜き構える。 「くぅっ!ならば、くらえっ!」 「うわぁぁぁっ!!や、やばいよ、京一!」 喚く龍麻を京一は強く抱きしめ、 「ひーちゃん、大丈夫だ。俺が護るからな!」 「護るって、やばいって。た、助けて…」 「飛水流奥義!」 技を口走る如月に村雨は軽く舌打ちすると、背後からはがいじめにする。 「む、村雨っ!?」 「やめとけって。そのままやったら龍麻まで怪我しちまうだろうが」 「くっ…」 村雨の言葉に我に返ったのか、如月は村雨から離れると、短刀を鞘に収めた。如月はそれでも怒りが収まらないようで、ぎらりと京一を睨んでいる。 「ひーちゃん〜」 「きょ、京一…」 如月の攻撃がないと分かり、再び京一達のラブパワーが爆発し、京一の龍麻を抱きしめる腕の力が更に強くなる。 醍醐と村雨はじっと京一達を静観しているが、なんだか目が怖い。 「京一、あとから覚悟しておけよ」 「あの馬鹿、龍麻から離れたのがお前のこの世の最期と思っておきやがれ」 と二人はドスの聞いた低い声で呟いている。 そんなみんなの気持ちも知らず、龍麻は喘ぎながら京一の肩越しに視線を向けると、黙って佇む壬生の姿が目に入った。なんだか様子がおかしい。しかも、ただならぬ殺気を感じる。龍麻はその壬生に言いしれぬ悪い予感を感じた。 「ん…?く、紅葉?もしかして、その構えは…」 「…いくよっ!裏・龍神翔!」 壬生がそう言い、蹴りを京一達に放った!龍麻は泣き寸前の顔で京一達と吹っ飛ばされながら、 「やっぱりぃぃ!だから嫌だったんだぁぁっ!もう、ガッコやめてやるぅぅ!」 と叫んだ。 それは無理な話。
〈魔人学園大パニック!完〉
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