■闇中夢気譚■ |
その時、あたしが最後に見たのは、 京一の辛そうな顔…。 目の前で倒れていくあたしを見ているしかできなかった己の力不足を呪う顔。
きょういち………… そんな、かお、しないで…… これは……あたしがよわかったから…… きょういち…… わらってて…… そして、また……「ひーちゃん」ってよんで……
竜珠が目を開けると京一の顔がドアップだった。 「ひーちゃん……」 心底安堵した聞き慣れてるけど初めて聞く声。 「…お早う、京一…」 しっかり間抜けな言葉を吐いてしまう。 「…ああ。お早う、ひーちゃん」 それでも安堵した静かな声で京一が返してくれる。 「京一の声が一番に聞けて嬉しい」 「“真神一の伊達男”の顔もな」 いつもと変わらずおちゃからけて言ってくれる京一にクスリと笑って 「…ずっと目が覚めるまで側にいてくれたんでしょ」 「ああ。目覚めたひーちゃんを一番に見たいからな」 「相棒だもんね」 「……そうだな。そうだ。今先生呼んでくるからよ」 京一が病室を出て間もなく院長が姿を見せた。
そして数日後。 竜珠は桜ヶ丘を退院した。 「雪が降ってる……。珍しい…」 「よお」 挨拶を済まし外に出て冬の空を見上げてると京一が目の前に立ってた。 「どうしたの、京一?」 「今日、クリスマスだからよ」 「あ。そうか…」 「んで、ひーちゃん一緒に過ごしたい奴がいるかと思ってな。そいつを呼び出し てやろうかと思ってな」 「……過ごしたい奴、目の前にいるからその必要ないよ」 竜珠がふんわりと微笑う。 「……オレ…?」 「そう。相棒としてじゃなく、恋人としていたいんだけど?」 と、言いながら首を傾げる。 「恋人…?」 放心状態で繰り返した京一が真剣な表情になって、 「ひーちゃん。オレ、ひーちゃんが好きだ。恋人として今日はエスコートするぜ」 と、優しく微笑って竜珠を抱きしめた。 「うん」 竜珠が誰にも見せた事のない満面の笑顔で頷く。
ふたりは雪の街に消える。 まだ続く戦いを今は忘れてただの恋人同士として聖なる夜を過ごす。
京一……あたしは決して死なない。 一緒に中国、行くんだもんね。 一緒に生きていこう……ずっと…。
<了>
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