□真緋〜序章〜


 

 それは、鮮烈な紅蓮。
 全てを焼き尽くす緋。
 その紅を見つめて立ち尽くすアイツに、俺たちは語る言葉を持っていなかった。
 戦いは喧嘩の延長だと思っていた俺たち全員の甘い考えを奈落の底へ突き落とす程に今回の事件は衝撃的だった。
 目の前で人が炎にまかれて死んでいったのだ。
 敵が化け物に変わっただけの簡単な喧嘩、という認識で今までいたのだと思い知らされた。
 一歩間違えれば自分達の生命すら危うい世界だったんだと誰もがようやく理解した。
 その危険に一番近くに居た奴はそれがわかっていたのだろうか。
 疲労も極限だったであろう身体をおしても。
 炎の先に消えゆく生命に手をのばして。
 少女が、小さく、だがはっきりと拒絶を示していなければ助ける事はできたかもしれない。
 いやアイツなら絶対助けていただろう。
 そう感じさせる何かが奴にはあったから。
 だが、助けを求めない魂に呼応するかのように炎は激しさを増して。
 俺たちはアイツをひきずるようにして建物から脱出した。

 何があったか、なんて解る筈も無い。
 辿り着いた時には剥き出しの腕にすでに無数の傷を負っていたところからして、何かが起こっただったろうことはわかる。
 紗夜ちゃんの兄貴が仕組んだ事だとしても、紗夜ちゃんとアイツの間にあったことまではわからない。
 そして紗夜ちゃんが身を呈してかばおうとしたその理由も。

 まだ黒い煙が出ている建物の見える場所に佇む奴を置いてその場を去ろうという者は誰もいなかった。
 むしろその後ろ姿にどうしていいのかわからなかったのかも知れない。
 やがてどんよりとした薄曇の空から雨がぱらつきだした。
 暗くなりつつある風景が一気に霞んでいく。
「帰るぞ」
 流石にヤバいと思い、一言かけてから腕を掴んで引っ張る。
 掴んだ瞬間小さく反応したが振りほどかれなかったので、脱出の時と同じようにひきずるようにして引っ張っていく。
 他の連中は醍醐が何とかしてくれるだろうから。
 常にない状態のこいつをとりあえず休ませたくて、良く遊びに行かせてもらっている一人暮らしの家に直行することにする。
 掴んだ腕はそのままだったが、なんとなく声をかけずらくて振り向かずに歩いていく。今何かを言っても気休めにしかならなさそうで。
 ただ黙々と歩いていく。
 ようやく家に着いたときには大分服が濡れてしまっていた。
 先に部屋に入って着替えさせるかそのまま風呂か考えていた時。
 唐突にヤツは倒れこんできた。
「な……ッ?」
 振り向きざま慌てて抱きとめるが、一緒に倒れ込んでしまう。
 だが、身体が触れた事で瞬間的に色々なことがわかった。
「おま……ッ、熱あるじゃねェか!」
 額に手をあてると相当な高さだとわかる熱だ。
 唇の端も紫がかっている。
 急いで着替えさせないと、ともたつく俺の動きをこいつはさらに束縛するかのように抱きついてきた。
「おいコラ、離せ……ッ」
 慌てて身を捩ろうとした時、聞こえたかすかな声にその動きを止められる。
 一瞬迷うが仕方ないとため息をつく。
「……5分だけだからな」
 それを過ぎたら容赦なく寝台に直行だ、と暗に臭わせた台詞に文句は飛んでこなかった。

 

 そうして俺は次の日久しぶりに遅刻する羽目になる。

 

コピー本小説『曙』に続く

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【日沙葵のコメント】

これが今回の新刊の小説の最初について発行する予定でした(涙)
も、文字化けさえしなければ〜〜!(死滅)
この話がないと小説の内容は春は曙とゆータイトルの言葉のようにほのぼのしまくりなんです……(笑)
いやほのぼので良いんですけど。
主京に見えないっていうか(自爆)
うう、ダメダメすぎ〜〜(号泣)

『真緋(あけ)』で出したかったなぁ。ということで。

本の内容とつなげると少しおかしいな〜?と思うのは『曙』の最初の導入がやけに長いから(爆)
この序章さえあればいらなかったんですけどね(汗)
ちなみにこの話は『曙紅龍』の主×京『GLORY DAYS』『ブルーグレイ』と同じ根っこにありますので。

 


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