「ひーちゃん!はねつきやろーぜ!」
と京一に言われたときには、
相変わらず頭悪そうなこと言うなあ(そんなとこが可愛いんだけど)
としか龍麻は思わなかった。
だが羽根つきを初めてすぐに、
これが京一の策略だったと気づいた。
そのとき龍麻はもう墨だらけだったけど。
「ちょっとタンマ!なんでそんなうまいの?京一」
「なんたって剣道部のブチョー様だからよー」
「そうか・・・って関係あんのかそれ?」
「あるようなないような・・・」
京一ははぐらかしながら羽根を投げて羽子板を思いっきり振る。
小さいころ羽根つきの鬼と近所で恐れられた俺をなめんな!
羽根は見事に直線を描きながら龍麻の顔近くに飛んでいく。
龍麻はとっさによけた。
羽根はそのまま龍麻の後ろに落ちた。
龍麻は無言で拾いに行く。
その後ろ姿に京一はニヤッと笑った。
今のは、よけるんじゃなくて持ってる羽子板を出せば打ち返せたんだよな。
京一に墨を塗られながら龍麻は考えた。
龍麻の顔は元の肌の色の方が少なくなってきている。
それに比べて京一はわずかに髭が書いてあるだけ。
ちくしょう。
龍麻は内心舌打ちした。
「京一・・・お前羽根つき得意なんだろ!俺一回もやったことないんだぞ!」
「やったことないの?どうりで・・・」
皮肉っぽく笑う京一に、龍麻は羽子板を投げつけたくなった。
「じゃ、ひーちゃんにハンデやるよ」
「い、いらねーよっ!」
「だって勝負になんねーもん」
「う・・・・・・・」
「こうしようぜ。サーブは全部ひーちゃんから。
それとひーちゃんの打った羽根が真ん中の線越えたら、どこに落ちてもひーちゃんのポイント。」
「それ・・・ハンデつけすぎだろー?」
「そんくらいしないと互角になんねーからなー」
龍麻は悔しさに唇をかんだ、が次の瞬間口の端でニヤッと笑った。
「・・・わかった」
「じゃー再開・・・」
「京一、ちょっと待て」
「なんだよ?」
「今から試合な」
「試合?いいけど・・・」
「いくぞ!」
龍麻は言うが早いか羽根を打つ。
それはぎりぎり真ん中の線を越えて京一側に落ちた。
「なッ!今のアリかよッ!そんな低いの打てっこねーだろーがッ!」
「ハンデだろハンデ!ほら羽根よこせよっ!」
ぶつぶつ言いながら羽根を拾う京一に龍麻は言った。
「罰ゲームは、なんでも言うことを聞く、だからな」
「・・・はあ?」
「あらかじめ言っとくと、俺の望みはお前とセックス!」
「なにいー!!」
羽子板を突きつけて宣言する龍麻に京一は呆れた。
そしてハンデをあげたことを後悔したがもう遅い。
龍麻はものすごく低い球やものすごく高い球を打ってくる。
反則じゃないとはいえ、手段のためには目的を選ばない龍麻に
京一は子供っぽさと・・・身の危険を感じた。
そろそろ本気になる必要がありそうだ。
京一は強い。
どこに打ってもほとんど返ってくる。
龍麻はハンデを与えられたとはいえ優位には立っていない。
だがもともと運動神経が抜群なので体が覚えてきた。
どこに打っても返す京一のように、
龍麻もほとんどの球を返せるようになっていたが、
頭の中ではただセックスセックスと呪文のようにつぶやいていた。
そのおかげか、京一の顔にもたくさん墨が塗られていった。
もちろん龍麻の顔にも墨は増えている。
そして・・・
「なあ・・・ひーちゃん・・・」
「・・・なんだよ・・・」
二人とも肩で息をしている。
落ちた羽根を拾おうとしゃがんだ京一はそのまま座り込んだ。
「何点とったら・・・終わりとか・・・決めてねーじゃん・・・」
「ああ・・・だよなあ」
「ど、どーすんの・・・勝敗は・・・」
龍麻は真っ黒になった顔でニヤリとした。
白い歯が浮かんで怖い、と京一は思った。
「先に・・・へばったから・・・京一の負け・・・」
「・・・ずりーぞ・・・まだやれる・・・」
京一はふらふらと立ち上がった。
龍麻はサーブを打とうとして空振りした。
そしてその反動でよろけるままに倒れこんだ。
「ひーちゃんだって・・・へばってんじゃねーか・・・」
「・・・ふざけんなよ・・・ぜってー・・・まけねーぞ・・・」
「じゃあ・・・引き分けな・・・もー・・・やめよーぜ・・・」
龍麻はなにも言わなかった。
多分とっても悔しそうな顔をしてるんだろう。
だがその真っ黒な顔はよく見えない。
夜になっていた。
部屋に帰ると、なによりベッドに倒れこみたかったが、
墨だらけの顔なのでそういうわけにもいかない。
京一を座らせておいて龍麻は風呂を沸かした。
昨日のお湯なのできれいではないが15分ほどで沸くはずだ。
その間に龍麻は京一に飲み物をだし、食べ物をだし、着替えをだした。
俺ってかいがいしいよな、なんて思いながら。
京一はぼんやりと龍麻を目で追っていた。
俺よりずっと疲れてるはずなのに、なんでこんなに働くんだ?
・・・愛されてるな。俺。
ちょっと赤くなって京一は下を向いた。
龍麻は京一が下を向いてるのですごい疲れてんだなあ、と思った。
そこにタイマー音が鳴った。風呂が沸いたのだ。
「京一。先入れよ」
「え・・・いいのか?」
「いいよ。疲れたろ」
京一はなんだか怒ったみたいな顔して風呂場へ行った。
龍麻はそれを不思議に思って見送った。
京一は顔が緩んだり赤くなるのを必死に押さえていた。
そして風呂場に着いて扉を閉めると、息を吐いた。
いつもより手荒に体を洗った。
顔は何度も洗ったがそのたび水が真っ黒になった。
ようやくきれいになったことを風呂の鏡で確認すると浴槽に体を沈めた。
気持ちいい・・・。
でもあまり満喫する気分じゃない、と京一は思った。
俺より疲れたはずのひーちゃんがまだ顔が真っ黒なのを思ってそわそわした。
今日初めてにしちゃ、よくがんばったよな・・・。
目の下まで湯船に浸かりながら京一はすねたような顔をしていろいろ考えていた。
・・・・・・。
覚悟を決めると京一は龍麻を呼んだ。
龍麻はすぐに行って風呂場の扉の前に立ち、シャンプー切れてたか、と尋ねた。
中から京一がううん、と言った。
何の用だろう、と思う間もなく、扉が開いて京一が顔を出した。
墨がすっかりおちた顔に赤味がさしていてかわいいな、と思った。
そこへ京一が一緒に入ろうぜ、なんて言うから、
うれしかったけど自分を押さえておく自信がなかったから断った。
すると京一はすごく不満そうな顔をして一緒に入らなきゃ怒る、と言った。
そんなこと言う京一がいまいち理解できなかったけど
早く風呂にも入りたかったし京一はもう既に怒ってるし・・・俺は服を脱いだ。
湯船から顔を出して墨の流し残しを龍麻に指摘しながらも、京一はそわそわ落着かなかった。
なにしろ一緒に風呂に入るのは初めてなのだ。
それに・・・。
「ひーちゃん」
「なに?まだ墨残ってる?」
「ちがくて。さっきさあ、引き分けだったじゃん?」
「あー、まあな」
「だからさあ、お互い・・・罰ゲーム、やろうぜ」
龍麻はちょっとの間悩んだ。
引き分けだったらお互い罰ゲームをしなくていい、ってのが普通だろ。
だって、罰、なんだし。
だけどその意味することがわかって、龍麻は京一を見つめた。
「俺の望みは・・・京一とセックスすること、って言ったよな?」
京一はそれには答えない。
それが答えだってわかってて黙っている。
龍麻は背中を向けた京一を後ろから抱きしめて首筋に唇をつけた。
そのまま耳の後ろまで舐め上げると京一がピクッと動いて浴槽に波紋が広がった。
その波紋は京一の体の反応のようでやけにいやらしく思えた。
しばらく首や耳をいじって京一の作り出す波を楽しんだが、
それに飽きると龍麻は京一を後ろ抱きにしたまま
浴槽から京一を抱え上げて風呂場の隅に行き長いキスをした。
口の中で暴れるような龍麻の舌が、風呂の湯気の息苦しさを助長して
京一は逃れようともがいたが、龍麻に腕を捕られていて叶わない。
苦しくて苦しくて涙が出そうになったときに龍麻が唇を離したので
京一はやっと息をついた、が、
腹に龍麻が腰を押し付けてきて、その熱さに思わず声が出た。
京一の声が風呂場に反響して大きく聞こえたので龍麻は喜んだ。
もっと声を出させたいと思った。
指を京一の口に突っ込んで舐めさせると京一の奥深くに挿入した。
京一はその痛さに声を上げた。
だが龍麻の指が中を掻き回したり出たり入ったりすると
しだいに悲痛な叫びが甘い響きに満ちた。
その声はどんなに我慢しても押さえ切れずに風呂場に響いた。
エコーがかかる自分の嬌声に京一は恥ずかしかった、
でもその恥ずかしさが京一をもっといやらしくした。
だから龍麻に頼んだ。入れて、と頼んだ。
龍麻は目の端で笑って、入れてあげる、と言った。
その甘い意地悪な響きに、京一は痺れたように龍麻を見つめて自分から足を開いた。
龍麻は京一の足を持ち上げて肩に乗せた。
そしてゆっくりと進んでいく。
京一は少し辛そうにしたが龍麻がすべて収めたまま動かないでいると
物足りなさそうに龍麻を見上げてきた。
龍麻は京一の足を持って突き上げた。
背が反ってあらわに出された京一の首を舐め上げながら龍麻は動いた。
声が漏れて風呂場に響くのを京一は止められなかった。
少しでも防ごうと龍麻にキスをしたが息苦しいのですぐはずした。
そうすると開きっぱなしの口から唾液がひとすじ流れた。
龍麻が突き上げるたびに気がおかしくなりそうに思えた。
それは龍麻が突き上げるせいだけじゃなくて
動くたびに龍麻の腹で京一自身が擦られているせいもあった。
京一は意識が遠くなりながら龍麻に限界を告げた。
龍麻は俺もだと言っていっそうはやく腰を動かした。
京一はひときわ甘くて大きい声をあげると
龍麻にしがみついた。
そして2、3回痙攣したように震えると
それによって快感を与えられた龍麻と同時に果てた。
龍麻は自分の腹を京一が出したもので汚したまま京一を抱きしめた。
京一の腹にもそれがついて京一はうへえ、と言った。
その言い方がおかしかったのといままでの気恥ずかしさで
二人で顔を見合わせて笑った。
そして龍麻はシャワーをひねってその下に二人で立った。
頭から熱いお湯を浴びながら龍麻は京一にキスをした。
京一はしばらくおとなしくしていたが鼻からシャワーのお湯が入ってむせた。
そして二人でまた笑った。
「そういえばさ、お互い罰ゲームだったんだろ?俺の罰ゲームはないの?」
と風呂から上がって体を拭きながら龍麻は京一に尋ねた。
なんでそういうこと覚えてるかなあ、と京一は思った。
なんかおごれとか言ってくるだろうと思ってたから、
無言で赤くなってる京一を見て龍麻は不思議に思った。
だからからかってやろうと思って、
お前の望みもセックスだったんだな、と言った。
すると京一は真っ赤になりながらそんなわけねーだろッて怒鳴った。
当たらずとも遠からず、といった風に龍麻には思えたので
まだ上半身は裸のままの京一を抱き寄せて
もう一回する?と聞いた。
京一が無言で手刀を入れてきたので体を離したが
やっぱりまだ京一の望みが気になって尋ねた。
京一は赤くなるだけで答えなかった。
俺の望みばっかり叶えてもらっちゃルール違反だ、と言うと、
もう叶えてもらった、と小さく言った。
わけが分からなくなっている俺に京一は小さい声で、
一緒に風呂に入りたかった、と言った。
目を丸くしている龍麻を見て京一はやっぱり言うんじゃなかったと思った。
一緒に風呂はいりてーなんて、なんか女みたいじゃねーか。
その願いは風呂に入ってから思い付いたもので
ずっと考えてたわけじゃない。
望みなんてなかったから。
ひーちゃんに文句なんて何一つないといったら嘘だけど・・・
特別に望みなんてなかった。
ただ汗だくで真っ黒のひーちゃんが俺の風呂上がりを待ってるのがかわいそうだったから
ひーちゃんに風呂に入って欲しかったから
一緒に入ったら楽しいかもなってちょっと思っちゃったから。
口を尖らせている京一がかわいくて、龍麻は抱きしめた。
いくらでも一緒に入ってやる、と言ったら、
もういい、と言われてがっかりした。
そんなつれないとこがまたかわいくてもっと強く抱きしめた。
また一緒に入ろうな、と言ったら
赤くなりながらいいよ、と言ってくれたのでキスした。
おしまい。
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