寝返りを打とうとしてそれが叶わなかったので、僕は目が覚めた。
龍麻が僕を抱きしめたまま寝ている。
「寝返りも打てないほど龍麻は僕を抱きしめてる。」
それが嬉しかった。
だけど
もっともっと強く抱きしめて欲しい。
苦しくて息ができないほど。
抱きしめられたまま死ねるほど。
怖いんだ。
ひとりになるのが怖いんだ。
自分がひとりだって思うのが怖いんだ。
僕は今までひとりだって思ってたよ。
でも違ったんだ。
龍麻といる僕が、
龍麻に抱かれている僕が、
壬生紅葉なんだ。
龍麻といないときの僕は僕じゃないんだ。
龍麻といないときの僕は空っぽなんだ。
死んでるんだ。
僕は自分が好きでも嫌いでもなかった。
ただどうでもよかった。
だけど龍麻といるときの僕は好きなんだ。
龍麻の目の中に、心の中にいる僕を、僕は大好きなんだ。
どうしてひとつになれないんだろう。
肌が求め合って吸いついているのに、
僕たちはどうしてふたりなんだろう。
僕たちはどうしてひとつのセイメイタイになってしまえないんだろう。
龍麻と別れるたびに自分の体がもぎ取られたように痛いのに、
龍麻と別れるたびに僕はからっぽの入れ物に戻るのに、
どうして僕と龍麻はひとつになれないんだろう。
悲しいよ
僕は龍麻の裸の胸に顔をすりつける。
そのぬくもり。
僕は知らず知らず泣いていた。
涙が龍麻の胸を伝って落ちていく。
それはまるで僕と龍麻をへだてる境界線のように思えた。
ひとつにはなれない。
涙があとからあとからあふれてくる。
境界線もあとからあとから引かれていく。
僕と龍麻はどんどん隔たっていく。
僕は龍麻がそれ以上遠くへいかないように抱きしめた。
でも僕の流した涙の冷たさが、
その境界線が、
僕たちがふたりだってことを
ひとつじゃないってことを
僕に教えていた。
悲しいよ
悲しいよ、龍麻。
終
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