ずっと、一緒だった。
真神学園に入ってからずっと。
これからも一緒なのかな?
一緒にいられたらいい。
ずっと友達でいられたらいい。
たとえ、彼が彼女を選んだとしても。
*
抜けるような蒼い空は新宿の街にも冷気の帳を降ろしていた。
真神学園の木々も落葉を始めている。
「では、今日はここまでにしておくか」
チャイムの音は希望の鐘のように3−Cの教室に鳴り響く。
HR前のわずかな時間を惜しむように、緋勇龍麻は生物の教科書を閉じて大きく伸びをした。
「ねえッ、ひーちゃん!」
龍麻はその声に振り返った。
そこには見慣れた、輝くような桜井小蒔の笑顔がある。
「小蒔…… どうしたんだい?」
「ヘヘヘッ。やっと今日の授業も終わったよねッ。何だかさ、最近授業が長いような気がしない?」
前髪に手をやって小蒔は言った。
龍麻は授業を思い出して頷く。
「あぁ、そうだなぁ、そう言われてみれば長い気がするよ」
「やっぱりそう思うでしょ? どうしてなのかな?」
「何言ってんだよ、小蒔。授業時間なんか変わんねぇだろ。ひーちゃんだってそう思わねぇか?」
木刀を肩に掛けて蓬莱寺京一がやって来る。
小蒔はムッとした顔をした。
「それは京一がずっと寝てるからだろ。ボクもひーちゃんも真面目に授業受けてるの!」
「何だよ、午後の授業なんてのは眠いもんなんだよ。ましてや犬神のヤローの授業ならなおさらだぜ。なぁ?」
京一は龍麻に同意を求めた。
しかしそれに反して龍麻は困ったような表情をする。
「おい、二人とも、龍麻が困ってるじゃないか」
醍醐雄矢が苦笑しながら注意を促した。
それを聞いて龍麻が口を開く。
「……でも、俺は長いと思うなぁ」
「ほら、ひーちゃんだってそう思ってるじゃないかッ」
龍麻の言葉を聞いた途端に小蒔がまくし立てる。
小蒔が何だか嬉しそうに龍麻には見えた。
そんな小蒔を醍醐は笑いながら、だがわずかに翳りを見せて眺めている。
「ひーちゃん…… この俺を差し置いて小蒔の味方をするとは、さては寒さが頭に来たなっ?」
龍麻は笑い出した。
だが小蒔はそうならない。
「こらっ、何てこと言うんだよ! ひーちゃんに失礼だろッ!?」
「うふふ、小蒔ったら。京一くんは冗談で言ってるのよ。ね、龍麻?」
一連の様子を眺めていた美里葵が微笑んでいる。
龍麻もそれに同意した。
「葵の言う通りだよ。小蒔もそんなにカッとならないで」
「えッ? ……ヘヘヘッ、そうだね。どうしてボクが怒ってるんだろ。ひーちゃんのことなのに、変だなぁ」
照れたように小蒔は笑った。
龍麻も一緒に笑う。
「…………」
それを見た葵もすぐに笑った。
「それじゃHR終わったらラーメン食べに行こうか」
ひとしきり笑った龍麻が誘う。
小蒔はすかさず応じた。
「うん。もうおなか空いちゃってたまんないよッ」
*
「あッ!」
「どうしたの、小蒔?」
校門の所で小蒔がしまったという顔をした。
葵が訊くと、どうやら授業の分からない所を訊くのを忘れたらしい。
「葵、お願い! 教えて!」
小蒔が葵に手を合わせる。
葵はにっこりと笑って頷いた。
「うふふ、もちろんいいわよ」
「あ、俺が送って行こうか」
龍麻の言葉に葵と小蒔の顔が明るく輝く。
「ありがとう、龍麻。でも、いいの?」
「遠慮することはないぞ、美里。龍麻はそういう性格なんだからな」
醍醐の言葉に京一は妙にニヤニヤして「そうそう」と相槌を打つ。
「それじゃお願いね、龍麻」
「ひーちゃん、サンキュ!」
二人とも嬉しそうに言う。
「じゃ、また明日だな、ひーちゃん。美里に小蒔も、じゃあな」
「じゃあな、三人とも」
三人がそれに応じると、京一と醍醐はラーメン屋へ歩いていった。
「行こっか。ひーちゃん、葵」
三人は葵の家に向かって歩き出した。
並んで歩く三人の横を子供達が笑いながら走っていく。
何事もない、いつもと変わらない、平和な光景だ。
「平和ね…… でも、こうあるべきなのよね」
「うん、ホントそうだよね。このまま、何も起きないでくれたらいいのになぁ」
「そうだな…… 俺達の《力》が必要なくなるなら、それが一番いいんだよな」
それは、三人の共通した気持ちだった。
そのために《力》を使っているのだから。
「…………」
沈黙が流れた。
そのまま、葵の家の前まで来る。
「……じゃ、俺はもう帰るよ」
「えッ、もう行っちゃうの?」
小蒔は明らかにがっかりした様子だ。
「ええ、小蒔の言う通りだわ。お茶くらい出すから寄っていって」
龍麻は残念そうな顔をしたが、それを断る。
二人に気をつかったためだ。
「いや、これから勉強するんだろ? 邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
「邪魔なんて、そんなことないよッ…… 邪魔なんてッ、ボク……」
小蒔が力なく、それでも一生懸命否定する。
「ありがとう…… でも、やっぱり俺は帰るよ。きっと、邪魔になる」
「そう…… それじゃ、また明日ね、龍麻」
「……今日はありがとね、ひーちゃん」
二人は龍麻にお礼を言う。
龍麻が気をつかってくれたことには感謝していたが、残念にも思っていた。
去っていく龍麻を眺めて葵が呟いた。
「龍麻は、本当に優しいのよね……」
「うん…… ホント、バカなくらいね。けどそれがひーちゃんのイイトコなんだよね……」
二人の考えていたことは同じだった。
お互いに相手が何を考えているかも分かっていた。
*
分からなかった所を教えてもらったが、小蒔は落ち着かない。
しかしそれを必死に隠している。
そこに葵がお茶を運んできた。
葵も似たような様子だ。
「……葵、ありがと。助かったよ」
「いいのよ、そんなこと……」
何だかおかしい。
会話が続かない。
こんなことはなかったのに。
一瞬の沈黙が何十倍にも感じられる。
原因は分かっている。
一人の少年の顔がそれぞれの脳裏に浮かぶ。
やがて、意を決したように葵が口を開く。
「ねえ、小蒔…… 小蒔って……」
小蒔も、不思議そうな顔はしない。
黙ったまま、何かを雰囲気から感じ取っている。
「小蒔って、龍麻のこと…… 好きなの……?」
「…………」
なかば予想していた質問だった。
だがそれは、もっとも残酷なものであった。
「……ゴメン」
蚊の鳴くような声で、しかし心に響くほどに思いを込めた声で小蒔は呟いた。
それを聞いて、葵の心は定まった。
「小蒔…… わたしは…… わたしは、小蒔と一緒にいたい。龍麻とも一緒にいたいけど、小蒔とも……」
そう言いながら小蒔の頬に手をやる。
「小蒔が龍麻を想っているなら、わたしだって小蒔を想ってる」
「えッ……」
眼を閉じ、そのまま顔を近付ける。
葵と小蒔の唇が合わさった。
ためらいなく葵は舌を挿入する。
舌が絡む。
小蒔を感じるように舌先が口内をこする。
「んぅ……ッ……」
葵はキスを止めない。
舌先は口内を刺激し続ける。
小蒔の頬が次第に朱に染まっていく。
抵抗しようとしても、もう力が入らない。
「ふぅっ」
ようやく二人の唇が離れる。
混ざり合った唾液が糸を引いた。
「あお……い……」
「小蒔の心が龍麻にばかり向いて、小蒔が龍麻とばかり仲良くして、わたしをもう見てくれないんじゃないかって……」
続けてきめ細やかな肌の小蒔の耳に小さな口が吸い付く。
葵は左手で小蒔を抱き、右手をスカートの中に進ませようとした。
それに気付いた小蒔は両脚を閉じてささやかな抵抗を試みる。
だが、葵の指は大腿の内側を優しくなでて快感をあおった。
「どう、して……? 葵は、ンッ、ひーちゃんのことが、あぅッ、好きなんじゃ、ないの……?」
「……龍麻のことは、好きよ。でも、龍麻は小蒔のことが好きなの。分かってるのよ、ずっと見てたから。今日だって、ずっと
……」
その言葉と指の動きに両脚の力が抜け、葵の右手は下着に届く。
下着の上から触れてみても、湿り気を帯びているのが分かる。
「あッ、あッ、ダメだよッ! そこは、ぅんん、あおいッ……」
下着越しに触れられただけで小蒔が喘いだ。
拒む声にも喘ぎが混ざる。
葵が小蒔を抱く左手を自由にすると、力の入らない小蒔はゆっくりと仰向けになった。
葵は空いた左手で器用にセーラー服を脱がせ、小蒔を下着姿にする。
その間も下着の上から指が触れるか触れないかのかすかな刺激を与え続けている。
「小蒔って、感じやすいのね」
「やッ、やだぁ…… そんなこと、うぁんッ、いっちゃ、ひッ、やだよぉッ…… んぁぁッ!」
小蒔が真っ赤になって否定する。
構わず下着の中に手を入れ、直に触れた。
小蒔の身体がびくっと震える。
感じたことのない快感が走り抜けた。
「ダ、ダメッ、んぁぅ、そんなとこ、あぁぁん! ダメだって、ひぁッ、ひぁぁぁッ!」
葵はわざと音を立てるように指を動かす。
いやらしい音が二人の耳に届いた。
理性を蝕んでいくような、そんな音だ。
手を出して見ると、指の間では液が糸を引き、指自体も妖しい光沢を放っている。
その指を葵は舐めた。
「小蒔…… 小蒔のことも、好きなの……」
服を脱ぎ、葵は全裸になる。
綺麗な胸が揺れ、“そこ”からは液が大腿を伝う。
「小蒔をもっと感じたいの。今は、今だけは」
小蒔を抱きしめ背中に回した手でブラをはずすと、小蒔の整った胸が露わになった。
葵はそれの一方をつかんで揉み上げ、もう一方に舌を這わせた。
時に舌先でつつき、時に乳首を口に含む。それに従って小蒔の声が官能的に高くなる。
「あ、あぁぁぅ、うぁん、はぁんッ! あお、あおいぃッ、きッ、きもち……」
そこで小蒔は言葉を飲む。
今の自分を否定するように。
「我慢しないで。わたしだって、身体が熱くなってきて、もう……」
小蒔は完全に裸にされる。
葵同様、“そこ”はしとどに濡れ、ぬらぬらと光っていた。
顔を“そこ”に寄せ、もっとも感じる部分を軽く噛む。
「あおいッ、あッ! んあぁぁぁぁんッ!」
そして“そこ”を舐める。
舌をゆるゆると震わせ、中にも差し入れた。
「ふッ、ふわぁぁぁッ…… あおいぃ、きッ、きもちイイよぅ……」
とうとう小蒔の我慢がきかなくなり、葵のもたらす快感に身をゆだねる。
そうやって悦ぶ小蒔の反応に葵も我慢できなくなった。
「こ、こまき…… わたしも、もう…… ここを、おねがい……」
唾液が垂れ、小蒔の液の付いた口で葵が切望した。
小蒔も葵の“そこ”を葵にされたように舐める。
「うぅん、こまき…… こまきぃ、もっと、もっとして……」
葵の喘ぎを聞いてさらに小蒔も高まっていく。
「あお、いぃ、ボクにも、もっとしてよぉ、ねぇ……」
二人は体勢を変えた。
葵が上になり、お互いの“そこ”を舐め、いじり合う。
「あぁぅぅッ、イイ、イイよぉ、こんなのって、スゴイよぅ」
「ん、んぅっ…… あぁぁっ、こまきぃ…… んんっ」
「なん、なんだか、とっても、きもちイイよぉ、ぅう、ボク、ボク、おかしく、なっちゃうかも、んぁぁうぅ、はぅぅ」
「こまきを…… ふぅっ、かんじる…… けど、もっと…… かんじたい……」
快感が膨れ上がる。理性がどこかへ行ってしまいそうになる。
「んあぁぁッ! あぅッ、ボク、ヘンになっちゃうよ、もう、イッちゃう、イッちゃうよぅ!」
「わたしも、もう…… おさえられない……」
「あおいッ! いッ、いっしょにイッて、あおいぃぃッ!」
「こっ、こまきっ」
お互いの名を呼びながら二人は果てた。
*
「ごめんなさい……」
小蒔は黙っている。葵に背を向け、表情を見せない。
「ごめんなさい……」
もう一度葵は言った。小蒔はゆっくりと葵を見る。
「……どうして? どうして葵が謝るの? 謝らなくちゃいけないのはボクの方なのに」
「小蒔……」
葵の心がぎゅっと痛む。小蒔の気持ちが分かる。
「ボク、自分がイヤになる…… どうしても、ひーちゃんじゃないとダメなんだ…… 葵がひーちゃんのことを好きなの知って
るのに、それでも、ひーちゃんじゃないと……」
眼をかたく閉じて、小蒔は弱々しく訴えた。
スカートを握りしめた手が震えている。
「それに、葵はこんなにボクのこと好きで、ボクだって葵のこと好きなのに、ボクはひーちゃんを葵から取ろうとしてる」
「小蒔、小蒔は龍麻を取ろうとなんてしてない。龍麻は、小蒔のことが好きなんだもの」
悲しそうな顔で葵が小蒔の言葉を打ち消す。
小蒔の眼から涙が一粒零れた。
「でも、葵を傷つけたくなんかないのに、ボクがひーちゃんのこと好きだから、傷つけてるんだ……!」
小蒔は自己嫌悪に陥っている。純粋な小蒔がそうなると彼女自身ではもうどうしようもない。
「……わたしと、これからも友達でいてくれる?」
突然に葵が問いを投げかけた。小蒔は戸惑うが、すぐに取り直して答える。
「あッ、当たり前だよッ! 葵は、ずっと、ずっとボクの友達だよッ!」
それを聞いて葵は本当に心からにっこりと笑う。
「それなら、わたしは傷ついてなんかいないわ。わたしは、小蒔の友達だから」
「葵……」
小蒔はわっと泣き出した。
葵はそんな小蒔を優しく抱きしめる。
「ねぇ、小蒔。龍麻をずっと好きでいて。龍麻もずっと小蒔を好きでいてくれるから」
小蒔は何も言えなかった。
後から後から涙が溢れてきて、何も考えられなかった。
葵もまた、助けられていた。
こんな安らいだ気持ちになったのは久しぶりだった。
小蒔がああ言ってくれたことが葵には嬉しかった。
「もう泣かないで。いつもの元気な小蒔に戻って。その小蒔が一番可愛いから、もう泣かないで」
そう言って葵は涙を拭ってあげる。
「うん…… そう、そうだよね! ボクは元気なのが取り柄だもんねッ! うん、もう泣かないよッ。ありがと、葵」
二人は笑顔になった。
これまでずっと二人は友達だった。
これからもずっと友達だ。そう二人とも確信していた。
おわり
▼たまきさんからのコメント▼
かわりゅさんありがとうございます!
わたくし迷わず18禁を選んで、頂いてしまいました。自分に乾杯。
葵と小蒔の気持ちが伝わってきますねー。すばらしいです。
わたしのと比べないでくださいね・・・。えへへ。ごまかす。
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