□ロッカールーム□



ふたりの周りだけ、空気が張り詰めていた。

何も聞こえなくなって、空気の流れが一瞬止まる。

そこだ!と龍麻が思ったのと同時に、京一が床を蹴った。

掛け声とともに相手の頭に竹刀が振り下ろされる。

その美しいまでの剣裁きに、見ていた後輩たちから拍手が起こった。

京一が防具を取る。その下に巻いていたタオルからこぼれる茶色い髪の毛。

胴衣の袖で顔の汗を無造作に拭う。

そして京一は俺を振り返って、どうだ、と言わんばかりに親指を立てた。

練習試合のくせに・・・と思いつつも、そんな京一のしぐさの一つ一つから龍麻は目が離せない。

そしてそれは龍麻の近くにいた剣道部の部員たちも同じようだった。

顔を赤らめて下を向く者、京一をずっと見つめている者・・・

ああ、そっか、と龍麻は思った。こいつら、京一が自分に合図したと思ってるのか。

・・・なんか気に食わねえな。




「な、な、最後のすごかったろ?」

と、剣道部の部室に向かいながら、京一が言う。

「相手なんか一歩も動けなかったぜ?あれでも向こうの主将なのによー」

「うん、剣道のことはよくわかんないけど、すごかったね」

と、にっこり笑って誉めてやる。

京一はびっくりしたように龍麻を見た。

「なんだよ?」

「いや・・・なんかそうやってひーちゃんに素直に誉められるのって・・・気色わりい・・・」

「素直じゃないなあ。じゃあごほうびあげるよ」

「い、いらねー!ぜってー変なこと考えてんだろ!?」

「やだなあ京一は。ほんとにひねくれてんだから・・・」

と言いながら俺は部室に入って後ろ手にドアを閉める。

そして逃げようとする京一の腰を引き寄せてキスをした。

京一はあらん限りの力で俺をひっぺがそうとするが、

俺は構わずキスを続ける。

普段ならこの辺で京一があきらめるのに、今日は抵抗がいやに長い。

なんで?と聞くと、京一は怒って顔を赤くしながら、当たり前だろ!と言った。

「ああ、わかった。抱きしめると、胴衣が冷たいんだろ。汗かいたから」

そう言いながら京一の胴衣の前を開いて手を入れると、

「そうそう・・・ってあほかッ!こんなとこでやめろって言ってんだよッ!」

「やだ。やめない」

「なッ!」

京一の反抗がうるさいからキスで口をふさぐ。

暴れる手を押さえつけ、足の間に割って入って抵抗できなくする。

口の中で暴れる龍麻の舌に苦しくなった京一が抵抗をやめると

龍麻は京一の胴衣の紐を解いた。

とそのとき、ドアの向こうで足音がした。

複数・・・しかもこっちに向かっている。

俺は京一をつかむと手近なロッカーの中に入った。

同時にドアが開く。

「あれ・・・だれもいないや」

わいわい言いながら、数人入ってくる。剣道部のやつらだ。

さっき見た顔もあるな、と隙間からのぞきながら龍麻は思った。

早く着替えて出て行ってくれよな・・・

二人ではいるにはロッカーの中はかなり狭かった。すこし体勢を変えるだけで一苦労。

「なんでロッカーん中はいんだよ!」

と京一が囁き声で言った。

「だからって、いまさら出たらあやしいだろ?」

と俺が言うと、京一は怒りながらも納得したので思わずキスをする。

京一が俺を手で突っぱねながらあっち行けよな!と必死にジェスチャー。

俺が、不可抗力だよ、と京一の耳に唇を押し当てて囁くと、京一がパンチを繰り出そうとしたので

「暴れたり、声出すとばれるぞ?」

と囁くと、少しおとなしくなる。

「この中狭いから、最後までできないよ。だからキスくらいいいだろ?」

と耳を舐める合間に言うと、京一は抵抗しなくなった。

俺は遠慮なくキスをする。京一が息を継げないほど。

と、そこに、

「今日の京一先輩、かっこよかったよなー」

という声がして、俺と京一はちょっと顔を見合わせた。

そして俺たちのいるロッカーの外で着替えていた連中の話題が京一のことになった。

どの声も京一を誉めるばかり。

ロッカーの中で京一は照れたように頭をかいた。

その嬉しそうな様子に俺は少しムッとして京一の胴衣を乱暴に脱がす。

音を立てちゃいけないと、京一はあまり抵抗できない。

最後までは確かにできないけど、その直前くらいまでならできるよな、と思った俺は

京一のトランクスの中に手を入れた。

京一は一生懸命からだをよじって逃げようとしたけど狭いロッカーの中に逃げ場はなくて

抵抗しようにも力が入らなくて、声を出すのを必死に抑えることしかできない。

俺の手の動きにからだを震わせつつも、京一はいやいやをするように頭を振って、

俺をにらんだ、けど、乱れた髪、泣きそうな目、ぬれた唇で見つめられても

誘っているようにしか見えなくて、俺は手を止めてあげない。

そのうち、京一は力が入らなくて思い通りにならない体を俺に預けてきた。

俺は京一に、トランクスを膝までおろすように言った。

京一はまたいやいやをしたが、俺が手を止めて、じゃあもうしてあげない、と言ったら、

京一は俺に手刀を加えてから怒ったようにトランクスを脱ぎ捨てた。

その潔さに、俺はちょっと笑いそうになって、声を出さないようにするのが苦しかった。

ロッカーの外ではまだ京一の話をしている。

「あいつら、京一に抱かれたいって思ってんだぜ?」

と俺は京一に言う。でも京一は開いてしまう口から声を出さないようにするのが精いっぱいで、

何も答えない。

「京一のこんな姿見たら、どうすんだろうな?」

京一が体を固くして、俺を見た。このままロッカーから投げ出されるとでも思ったのだろうか。

俺は、京一にキスした。俺のもんだからな。

首にもいっぱい印をつけておく。京一に色目を使うやつが出てこないように。

京一はキスをせがむように首をのけぞらせる。もう、限界なのだろう。

声を抑える苦しさから京一の目に涙が浮かんでいる。

俺はその涙を指ですくって、ぬれた指を先だけ京一の奥へ滑り込ませた。

京一の体がビクッとして喉がゴクリと鳴る。

俺の、優しく掻き回す左手と、浅い京一の呼吸に合わせて扱く右手に、

茶色い髪をばさばさにして京一は無我夢中になった。

そして俺が指を根元まで入れると、京一は短く悲鳴を上げて俺の手の中に放った。

俺はロッカーの中にあった誰かの胴衣で拭こうと思ったが、

京一先輩カッコイイとか言ってるやつが着るのかと思うと腹が立って

落ちていた京一のトランクスで拭いてやった。

京一は口を開けっ放しにして荒い呼吸をしていたが、

ふと自分が声を上げたことに気づいて体を固くする。

俺は、ロッカーの扉を開けた。

京一がびっくりして身をすくませる。

そこには誰もいなかった。

「気づかなかったの?感じまくってたもんなあ」

と、俺はロッカーの外に出て言った。

振り向くと、京一がロッカーの中でもじもじしている。前を押さえて。

俺は京一を引きずり出す。

「うわッ!ち、ちょッと・・・」

暗いロッカーの中ならいざ知らず、昼間の、しかも蛍光燈のともった部室に

全裸で放り出された京一は俺に背を向けてしゃがみこんだ。

「ね・・・俺も気持ちよくしてよ・・・」

俺はしゃがんで背を向けた京一をそのまま後ろ抱きにする。

「・・・ここでッ!?」

「うん。だってロッカーの中じゃ狭いだろ?」

「そういうことじゃなくてだなあ・・・」

いやがる京一を抱きしめる目の端に、ちょっと大き目のロッカーが目に入った。

「ああ、じゃああそこでしよう」

「はあ?だ、だからロッカーがいいって意味じゃなくて・・・」

俺は聞こえない振りをしてそのロッカーを開けて、荷物を全部出すと

京一を抱えて中に入った。

京一は部活のたびに思い出すのかなあ、と思って俺はちょっと笑った。


おしまい


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