□オールド イングリッシュ シープドッグ□ |
二人のセックスはまるでケンカだ。 触れ合うはずのやわらかな曲線はなく、甘い言葉もなく、部屋にはただ、 快楽がまるで罪であるかのように、ただ熱さのみを追い、体だけを抱く。 二人はまるで罪人であるかのように、熱い空気に潤む目で、
突然海に行こうと言い出したのは京一だった。彼が思い付きで行動を起こし、 龍麻が従順な犬のようにそれに従うというのが彼らのいつものパターンだ。 口には出さず京一を連れ出したのだった。
「へー、意外に人いんだなー。」 閑散とした冬の海岸に、それでも犬を連れた親子や、カップルの姿がまばらだが 在ることを認め、京一はつぶやいた。 「残念?」 「なにが?」 歩きはじめていた京一が足を止め振り返った。 「なーんだよ、ひーちゃん」 龍麻より背の低い京一だが、龍麻はマフラーに顔を突っ込む形で俯いていたので 視線を合わすため、さらに背をかがめ覗き込む。 「京一、俺と二人きりになれなくて、残念?」 目が合った瞬間待ち構えていたかのようにそう言われ、京一はうろたえた。 「だーれーがーだっつーの。手離せ、おら。」 「やだ。」 無口で、黒目がちな優しい目をしてるくせに、龍麻は意外に我が強い。 「ひーちゃん、離せって。ばかじゃねーの?こんなとこで。」 しばらく無言の攻防が続いたが、案の定龍麻は決して折れようとはせず、 「なにも!」 赤い顔で、少し口を尖らせ京一は怒ったように言う。 「なにも、こんなとこじゃなくてもいいだろ。」 いわれた途端龍麻はあっさりと京一の手を解放し、嬉しそうに目を細めた。 こんな風に龍麻は、ほとんど口をきかないくせに、物事を自分の思うとおりに コントロールしてしまう。まつげにかかる前髪の間からのぞく、黒目の大きい瞳 と、ゆったりした動作で人を安心させてしまう。京一はそんな彼に、性格の悪さ を顔と口数の少なさでカバーしていると憎まれ口をきいてしまうのだが、
「こっち、おいでよ。」 望む言葉をもらって上機嫌になった龍麻はさっさと人のいない場所を求めて歩き出した。 「ひーちゃん、ここ詳しいのか?」 たぶんケダモノの勘てやつだと思いながらも、京一はそうたずねて後に続いた。 龍麻は首を横に振っていた。 ついたところは岩場に囲まれた砂浜で、奇跡のように人がいなかった。 「やっぱ、ケダモノの勘てやつだな。」 半分あきれ、半分尊敬しながら京一はつぶやく。龍麻はそんな彼に顔を寄せ、違うよと言った。 「違う。愛のちから。」 京一はあまりな台詞に固まって、その場に立ち尽くした。 「いや、おまえ・・・・・・な、何言ってんだよ・・・・・・鼻水たれちまったじゃねーか。」 取り合えず何かを言わなければとんでもないことになってしまうような焦りに駆られ、 「知ってる?俺、京一が好き。」 龍麻は京一の言葉が聞こえなかったかのようにそう言い放って、 「だーーー!!ひーちゃん!おまえ恥ずかしすぎ!」 京一は頬にかかる息ととにかく恥ずかしい龍麻に耐え切れず、暴れだした。 「あんたは、俺が好きか?」 言いながら龍麻は、答えを聞く前に京一の唇をふさいでしまう。 「ひーちゃん、なんで、いつもそうなんだよ。」 軽く口内を探るだけのキスの後、京一は憮然とした顔で唇をぬぐい、かなり本気に龍麻を睨み付ける。 「ちったーなんで怒ってるかきこーとしろよ。」 「なんで?」 「・・・・・・もういーよ。」 「そう?」 龍麻は一瞬探るような表情で京一を見て、彼はなんだか悲しそうな顔をしていたけれど、 それを甘んじて受け入れながら、京一はやはり不満気だった。 一度だって彼の答えを待ったことはない。 「ひーちゃんは」 一瞬唇が離れた隙に京一は言う。すぐに角度を変えて口付け直そうとする龍麻を強く押しやって、 「ひーちゃんは、俺の答えなんかいらないって思うのかよ。」 京一の顔は真剣で、それを見た龍麻は悲しそうな顔になる。 「そうかも。」 「・・・・・・あーそーかよ。」 「・・・・・・」 「じゃーな。」 京一は本当はわけがわからなくて、ただ一瞬でも早くこの場から立ち去りたかった。 「気持ちいいのは、いけないのか?」 あまりにもこのシチュエーションにふさわしくないその台詞に 「何、言ってんだ?」 「京一は、いつも悪いことしてるみたいな顔でするから、俺はあんたの答えなんかいらない。」 「何、言ってんだよ・・・・・・」 「あんたがほんとはいやでも、俺はあんたが好きだし、気持ちいいからエッチしたいよ。」 「お、俺が・・・・・・いついやだなんて言ったんだよ。」 「俺のこと見ない。」 「そっそれはっ!」 言いかけて京一は、この先を言ったら安っぽい恋愛ドラマになってしまうことに 気付いて、口を閉ざす。 「・・・・・・ここで、すんのか?」 それだけを言って、後は何も言わないようにしよう。そう思った。 「うん。」 また鼻先をマフラーに埋めるように頷いて、龍麻はやっと安心する。 「気持ちよくなろう。ちゃんと。」 彼がそう言うと、京一は声を立てずに笑って、龍麻を砂浜に押し倒し・・・・・・ ここから先は本来なら書くには及ばないが、たまきからの命令なので、書くこ とにする。(でも18禁にはならなかったよ。メンゴ。)
押し倒し、しばらく転げまわった後、二人は互いに夢中になった。 厚着した服の間を器用にかいくぐってくる冷えた指にビクつきながら視線を合わすと、 「いてっ」 京一の抗議の声を無視して、彼はわずかに熱くなっているものを探り当てると 指で包み込んでしまう。固い生地に肌をこすられ京一は本当に痛かったのだが、 龍麻がやがて彼のデニムをずらすと、それはそれでものすごく恥ずかしくて、 「ちゃんと」 いいながら龍麻は京一の顎をつかみ、無理に視線を合わす。 「ちゃんと京一のやらしー顔見せて。」 「・・・・・・るせー・・・・・・よ・・・・・・」 「やらしー声も聞かせて」 「ばっ・・・・・・ん・・・・・・」 言葉を紡ごうとした瞬間にさらに奥に触れられて、京一は不覚にも甘えたような 声が漏れてしまう。 龍麻はその声を聞き、眩しいみたいに目を細めて、額と額を ぶつける。 「ちょ・・・・・・待て・・・・・・ここでやったら・・・・・・砂が・・・・・・」 「そしたら、俺が洗ってあげる。」 「げっ・・・・・・やっぱ、今日は・・・・・・や・・・・・・」 「だめ。」 指だけで、熱くて、あまりに熱かったので、
ただ、何も隠さなかったセックス。自分の内側をさらけ出したセックス。 目が覚めて京一は、うっすらと自分が口走った言葉を覚えていて、いつまでも赤い顔をしていた。
ていうか寒くないのか?彼らは。 これも愛のちからということにしておく。
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