□殻の中の真実/京一サイド□


 

かったりぃ毎日。

学校行って、馬鹿やって、騒いで、周りの奴ら笑わせて、

それなりに楽しいこともあるけど、

それ以上に、

疲れる。

知り合いは多いが、

特別仲のいい友達がいるわけでもない。

つるんでる仲間はいる、

それが、「特別」と言えるのか、

わからない。

 

風が吹いた。

新しくつるむようになった。

不思議だな、おまえは、

どこかであったことがあるような「気」がする、

「気」のせいなのは、わかってる、

でも、「気」になる。

 

妙に落ち着いている。

みんなは無理してんじゃないかって、

心配してた。

だけど、俺は、

違うとこを見てた。

あの子が、兄貴と一緒に、逝こうとした時、

おまえ一人が、動いた、

炎に向かって。

俺はなぜか焦った、

だめだ、もう間に合わない、そう言った。

振り向いたおまえの瞳は、

何の迷いもない、まっすぐな、

それでいて、何か、

冷めた色。

 

いずれ、こうなるだろうとは思ってた。

あいつの好意が、奴に伝わっていると思えなかった。

いや、あいつがやってることは、本当に、

好意から出たものなのか、

それも疑問だ。

奴の面倒を見ることで、あいつ自身の地位を築こうとしている、

俺には、そう思えた。

地位、つまり、「居場所」のようなもの。

奴に干渉することによって、自分というものを確立している。

あいつは、それを自覚していない、

いや、誰もが、そうでありながら、

誰も、気づいてないんだ。

だとすると、そういう行為が、一般に、

「善意から出た行動」と言われるものなのかもしれない。

だけど、奴は、あいつのその深層にあるものを、

見抜いて、

牙をむいた。

 

もし、それが本当だとしたら、

「慰め」も、自分の「居場所」を作る手段に過ぎない。

だけど、

奴を救えなかったあいつに言葉をかけるおまえを見て、

俺は気づいたんだ。

おまえは、

何も求めていない、

まるで、「居場所」を必要としていないような、

そんな、

そんなはずない。

モノは何でも、場所がいるはずだ。

場所のいらないモノなんて、ない、

ない?

……そうか、

 

何もないなら、場所はいらない。

 

気づいた、

俺は、怖いんだ、

おまえが、

怖い、

見えない壁の中のおまえが、

本当に、

何も求めていなかったら。

……俺は、教えてやりたい、

「死」の恐怖を、

俺が、おまえから知ったように。

 

失いたくないものがある、

それが、「死」を恐れる「理由」。

それを教えてくれたのは、

おまえだ。

 

――――避けているわけじゃないよ。

おまえはそう言ったけど、

わかってる。

おまえは、俺が怖いんだ、

それは、俺も同じ。

初めて見た時に感じた、あの既視感、

あれは、俺だ。

俺は、おまえの中に自分を見た。

 

あの子を助けに行くおまえを見て、

仲間の無事が先だと言った、俺は、

本当は、

ただ、おまえを死なせたくなかった、

仲間のことなんか考えてなかった。

奴を殺してしまい、ショックを受けたあいつの横で、

俺は、ちゃんと言葉をかけてやれただろうか、

覚えているのは、おまえの、

静かで、空ろな、瞳。

 

いつか、気づいてくれるだろうか、

俺の心の空隙に、

おまえが、中身を吹きこんだことを。

そして、そういうおまえ自身は、

確かに存在することを。

 

いつか、聞かせて欲しい、

おまえが、「死」を恐れるようになったとき、

俺は、その「理由」になれるのかを。

 

俺の「理由」は、

おまえだ。

失いたくない、だから、守る。

おまえは、俺の「居場所」だ。

俺は俺のために、おまえを守るから、

おまえの前では、正直になれる。

おまえの瞳は、いつでも、

俺の深いところに響く。

だから、俺は、「本当」の言葉を、口にできる。

 

 

――――俺を見ろ、

    

    龍麻、

 

    愛してるから。

 


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