■思惑いっぱい修学旅行:3日目■



−宿の朝−

ん・・・目覚しが鳴ってる・・・醍醐のか・・・。
早く止めろ・・・。
・・・・・。
早く止めろよー・・・。
・・・・・。
ったく!起きれねーなら目覚しかけんな!
俺は布団からのそのそ出ていって、醍醐の耳元で鳴っている目覚しを止める。
こんな近くで鳴ってるのになんで起きないんだ・・・?

「醍醐・・・おい醍醐!起きろよ!朝だぞ!」

その声で起きだしたのは京一だった。
布団の上に座ったまま、目をしきりにこすっている。
今日もつらそうだ。
そうさせたのは俺だと思いつつも、なんだか笑ってしまう。
そんな俺を不機嫌そうににらみながら、京一がたずねてくる。

「醍醐・・・起きねえのか?」
「そうなんだよ。めずらしいな。昨日だって一番早く起きてたのに・・・」
「そりゃあな・・・。朝起きられればラッキーってくらい飲ませたから・・・」
「ああ・・・」

合点がいった。醍醐は昨日寝かされてたのだ。じゃまだったから。
酒に強い醍醐を、絶対起きないレベルまでつぶれさすのは至難の技だ。
京一は酒に何か混ぜたのだろう。
昨日の京一の目がそれを物語っていた。
俺と二人になるために・・・。
それを思い出して、俺は、布団の上でぼんやりしてる京一に覆い被さる。

「もー!朝っぱらから・・・どーけーよー!」

心なしか抵抗する力が弱い。
疲れてるんだろう、なんてもちろん思わない。
なんだかんだ言って嬉しいんだろ?
小蒔たちが呼びにくるにはまだちょっと時間ありそうだし・・・

「おーい!おきてるー!?」

元気に小蒔がドアを叩く。
・・・・・・はえーんだよ!おはようのチューぐらいさせろっつーの!
するけど。
俺はむりやり京一にキスして、すぐに立ってドアを開けた。

「おはよう、小蒔。俺は起きてるけど、他の二人はだめみたい・・・」
「みーんなだらしないなー・・・なに怒ってんの京一?」

俺は振り返ってないけど、京一の怒ってる顔が手に取るようにわかる。
笑いをかみ殺しながら、俺は小蒔に言った。

「醍醐が起きないんだよ。ちょっと起こしてやって。小蒔が言えば起きるかも知んないし。」
「えっ、な、なんでボクが・・・」
「いーからいーから」

俺は小蒔の手を取って、死んだように寝てる醍醐のそばまで連れて行くと、

「じゃ、俺たち顔洗ってくるわー」

と言い残して部屋から出る。京一を引きずって。

「・・・ひーちゃん、あれ、気ぃきかしてるつもり?」

京一はまだ引きずられながら、俺に聞いてきた。

「それ以外に何があるんだよ」
「今、逆効果かもよ・・・醍醐にとっては・・・。」
「え?なんで?」
「昨日、醍醐ちょっと変だっただろ。無口でさ・・・。」
「そう・・・だったかな、そうだったかもな。」

と同意してみるが、わからない。何しろ醍醐なんて見てなかったから。

「あれ、おとといアン子となんかあったみたいだぜ・・・よくしらねーけど」
「・・・・・・・」

無言でいる俺を、京一がじろじろ見てくる。
疑ってるな!俺を!
正解!
でも。
実際、アン子がどうやって醍醐を連れ出したかとか何してたかは知らないのだ、ほんとに。
ただ「醍醐を1時間ばかり連れ出して」と言っただけで、
アン子がいろいろ頭をひねった末、「かわいそうだけど・・・龍麻くんのためなら」
といって考えついた案であって、俺はどんな案かも知らない。
龍麻くんのためじゃなくて龍麻くんの裸で儲けるため、ってことは知ってるけどね・・・。
しかし、ほんとは3日間ずっとアン子に醍醐を連れ出してもらおうかと思ったが、
アン子に怪しまれると思って1日だけにしたのだ。
醍醐がそんな目に(どんな目にだ?)会ったなら、まあ1日だけでよかったとしとくか。
昨日は京一から誘ってきたし・・・。
・・・。かわいかったな京一。

「ひーちゃん、いつまで顔洗ってんの?早くメシいこーぜー」

俺が余韻に浸ってるってのに当の京一は早くも階段を降りてる。
・・・んー、ときどきかわいくないよな。


−観光中−

普段、いつもの5人でいるときは、京一はあまり俺を見ない。
たぶん、みんなに俺達のことを感づかれないようにだ。
俺は感づかれてもいいけど、京一が嫌がるからしょうがなくひた隠しにしてる。
でも、みんなでいるときに俺を見ないってことは、
必然的に、俺の目の前で京一は他のやつらと仲良くしてるわけで。
それがとっても気にくわないから、
俺だけを見ろ!って言うこともあるけど、
現実はやっぱりそういうわけにはいかない。
京一が、俺だけを見ろ!って言ってくれたら、
俺は小蒔や醍醐を押しのけてでも京一の隣りで京一だけを見てるのになあ。
まあ、そんなこと言わないのが京一なんだけどさ。
俺はちょっと困って、京一をちらりと見た。
・・・かわいいよなあ。
顔の作りだけじゃなくて、何か惹きつけるものがある。
特に目。目を見ると、わかる。言葉よりもずっと雄弁で正直で、
それでいて自分のすべてが許されていくような、包まれているような、不思議な目だ。
やっぱり、かわいいなあ京一。
なんて心の中でニヤニヤしてると、不意に美里が小声で話し掛けてきた。

「ねえ・・・龍麻。小蒔、ちょっと変じゃないかしら。醍醐くんも・・・」
「小蒔が?」

腹へってんじゃねえの、と言いそうになるのを押さえて、小蒔の様子を伺う。
・・・たしかに。静かなのは京都のせいかと思ったら、小蒔が無口だからだったのか。
醍醐は・・・たぶんアン子のことと・・・薬のせいでまだだるいのだろう。
小蒔は・・・多分、醍醐のせいだな。朝二人っきりにさせたのが悪かったか。
あの時にアン子のこととか言ったのかも・・・醍醐そーいうとこで真面目だし。
うあー知りてー!アン子なにやったんだ?
いろいろ考えてる俺を見て、美里はもっと心配したようだ。違うんだけどさ。

「龍麻・・・今日は、観光を早めに切り上げて、帰りましょうか。
 小蒔も醍醐くんも、宿でゆっくり休んだ方がいいんじゃないかしら。」
「そうだな・・・そのほうがいいかな」

その方がいいなんてもんじゃない。
内心俺は小躍りしていた。たまにはいいこと言うな、美里も。


−宿にて−

宿に着いたとたん、醍醐は部屋で布団もひかずに寝てしまった。
俺は上から布団をかけてやりながら、京一にたずねる。

「・・・京一、いくらなんでもクスリ強すぎだろー」
「・・・・・・だって」

だって、俺としたかったんだもん。
って最後まで言えよなー。
俺が京一に近づいていくと、京一は明らかに身構えている。
そーいうとこがソソるんだって、ほんとにわかってないのか?
と思いつつ自分を押さえる。いちおう醍醐もいるしな。

「な、なんだよ!その線からこっち近づくんじゃねえ!」

アホか?
俺はおかまいなしに防御壁を突破し、ばたばた暴れる京一の手をつかんで、
キスを・・・されると思って京一が目をつぶったのを、ただ見ていた。
京一が、なにも唇に触れないのでそっと目を開ける。
そしてニヤニヤしてる俺を見ると、真っ赤になって手を振りほどこうとした。
でも絶対に離してやらない。

「ふーん、きょーいちくんは、そんなことして欲しいんだ?」
「なッ!し、して欲しくなんかねーよ!なんにも!」
「へーえ、醍醐が邪魔だからってクスリ盛ったりしてんのにー?」

怒ってる怒ってる。でもほんとだから言い返せないでばたばたしてる。
そのばたばたしてる京一にすばやくキス(今度はほんとに)して、
もっとばたばたした京一に、俺は言った。

「フロ!」
「は?」
「風呂!昨日ゆっくり入れなかっただろ?今ならまだみんな帰ってきてないから、騒ぎになんないと思うけど?」
「騒ぎ?あっ、ひーちゃんがあんなことするからだろ!」
「今日はもっと騒ぎになるよ?昨日もいっぱい痕つけちゃったからさ」
「・・・なんでそんなことすんだよッ!」

俺のものだから。でも言わない。
俺は風呂の用意をして部屋を出る。
京一の返事なんて聞かなくてもわかる。風呂に入るには今しかない。
だから京一は来るしかない。
京一がなんだかすごく悔しくて地団駄踏んでるのが想像できる。
それは現実とちょっとも違ってないだろう、ってことも。


−風呂−

京一は単純だ。
不機嫌だったくせに、風呂が一人占め(俺もいるんだけどなあ)できるとわかると、
超ゴキゲンで湯船で泳ぎまくってる。ひとりでメドレーまでやってる。
でも俺が湯船に入ろうとすると、京一はあがろうとする。
・・・すごい警戒のされようだな。
素直じゃないやつ。
俺のこと好きなのはわかってんだから、二人のときくらいいちゃいちゃしたっていいのにさ。
俺は湯船に入ろうとしたものの、踵を反してまた体を洗いに戻る。
京一は、案の定、泳ぎを再開した。
俺は、体を隅々まで洗って、頭も丁寧この上なく洗って、顔も洗って歯も磨いて、
とにかくたっぷり時間をかけた。
その間京一はお湯から出てこない。
するとどうなるか。
・・・ほんとに単純だな。
思った通りのぼせてる。
顔を真っ赤にして、調子はずれの鼻歌歌ってる。
だから、俺がそっと近づいてもわからなくて。
その上俺が後ろから抱きしめても抵抗しなくて。
キスをすると舌を入れてきたりして。
昨日たくさんつけた痕が赤くなった体よりもいっそう赤いのがやけになまめかしくて。
わずかな理性もどこかへ吹っ飛んでいった・・・。
誰も来ませんように・・・。


−部屋−

まずった。
俺が湯船に入った時点で京一はのぼせてたのに、
そのあといろいろしちゃったもんだから、
京一はぐったりしている。
俺は宿の人に濡れタオルやらウチワやら貸してもらって、看病していた。
その間に他のグループの生徒たちは帰ってきていて、
部屋に入ったり風呂に行ったりするたびに、
ドアの外がざわざわしたり静かになったりした。
ノックの音がして、美里が入ってくる。

「京一くん、どう?」
「んー、まあのぼせただけだし。ちょっと休めば平気だと思うよ。」
「そう、よかった・・・。あ、もう夕食なんだけど・・・醍醐くんも調子悪いみたいだし、
 京一くんも倒れたって言うから、今日はお部屋で食べるようにって、先生が・・・。」
「そっか、ありがとう。美里。」

美里はちょっと赤くなる。

「た、龍麻は、どうする?」
「醍醐は寝てるだけとしても、京一は一人じゃ食べらんないから、俺も部屋にいるよ」
「優しいのね。手伝うことあったらなんでも言って?」
「ありがとう、でも大丈夫だから、美里はみんなと食べてきなよ。」
「そう・・・わかったわ。じゃあ、お願いするわね。」

美里が出ていってすぐ、宿の人が夕食を3人分持ってきてくれる。
俺は自分の分を急いで食べ、醍醐の分は枕元に置いておき、
京一をそっと起こしたが、まだ起き上がるのはつらそうなので、
膝枕をしてやる。
そしてちょっとずつちょっとずつご飯を食べさせる。

「うまい?京一。」
「うー・・・わかんねー」

その割には残さず食べる。食べさせ終わると京一をちゃんと枕で寝かせ、醍醐をたたき起こす。
醍醐は死人のような顔で起き上がって、俺が飯どうする?と聞いたのに対して
絞り出すような声でいらん、とだけ言ってまた寝た。もうほっとく。


−消灯後−

俺は我ながらかいがいしく京一の汗を拭いてやったりウチワで扇いであげたりしていた。
俺のせい、っていうのがかなりあるしな・・・。
そのおかげか、うんうんうなってた京一も、もうだいぶ回復していて、
会話したり立ち上がったりできるようになっていた。

「ひーちゃん・・・疲れるだろ?もういいよ。」
「いいわけないだろ。京一が倒れたってのに。」
「ひーちゃん・・・」
「・・・京一、まだ暑い?」
「んー、ちょっと」
「歩ける?この部屋暑いから、もうちょっと涼しいとこ行きたいんだけど。」
「ええー?歩けるけど・・・歩きたくねえー!」
「じゃ、おぶってやるよ。」

と言うが早いか、京一をむりやり担いで外に出る。
京一は抵抗しない。
めんどくさいってのが半分、後の半分は・・・さては俺を惚れ直したね?
京一にはニヤリとした俺が見えてない。


−山の中−

「ちょっと涼しいとこって・・・山ん中じゃねえか。」
「涼しいだろ?」
「涼しいけど・・・」
「いいとこ見つけたんだ、昨日」
「昨日・・・?ああ、なんか葉っぱつけて帰ってきたのは、ここいたのか。」
「そう、この先。ほら、すごいだろ?」

俺たちが着いたのは、木がうっそうと茂っている山の中にあって、
なぜか10メートル四方ほど野原になっているところだ。
俺は京一を担いだままその真ん中へんに行って腰を下ろす。

「ひーちゃん・・・ここって、俺たちが天狗サマってやつになって、守った山だよなあ。」
「そうだけど?」
「じゃあなんでカンキョーハカイしてんだよッ!
 ここ、秘拳黄龍かなんかで木をなぎ倒して作ったんだろ!?」
「う・・・ばれた?」
「ばれた?じゃねえよ!なに考えてんだよッ!」
「まあまあ。上、見てみ。」

俺は京一のブーイングを聞かないでそこに寝そべった。
京一も仕方なく隣りに寝そべる。
見渡す限りの満天の星。月明かりが明るく二人を照らしている。

「スゲエ・・・」
「だろ?だろ?」
「だ、だからって、こーゆーことしちゃいけねーだろ!」

俺は答えない。ただ星を見ている。
海みたいだ。落ちていくみたいだ。

「京一・・・。ウンメイって、信じる?」
「運命?・・・そーだなー。いいときには信じるかもな。」
「俺・・・たまに思うんだ・・・逆らえない運命ってものがあるんじゃないかって。
 どうあがいても、その中から抜け出せることがない運命ってやつがさ・・・。」
「・・・ひーちゃん・・・」

京一はそっと俺の手を握った。
俺は漠然とした不安と、その手のあったかさから、強く握りかえした。

「運命なんてさ・・・よくわかんねーけど・・・あると思うなら、
 俺とひーちゃんが会ったのだって、こうなったのだって、運命なんじゃねーか?」
「京一・・・。」
「な、なんだよ、泣きそうな顔すんなよ!ひ、ひーちゃんは、
 いっつも自信カジョーっぽくニヤニヤしてるのが似合ってるって!」
「・・・ふーん、京一は、いじめられるのが好きなんだな?」
「・・・・・なんだよ!人が心配してんのによ!」
「京一・・・こっちこいよ」

京一は素直にやってくる。その手をひくと、京一は俺の上に乗っかるように横になった。
いつもならすぐに起き上がるけど、今日はされるがままになっている。
たまにシリアスなこと言ったんで、心配させたかな・・・?
俺は京一に口づける。
シャツの中に指をはわせる。

「こんなところで・・・人に見られたらどーすんだよッ!」

なんて言うわりに、京一は抵抗しない。

「ね・・・京一・・・京一、上になって。キジョーイ。」
「なッ!やッ、やだよッ!」
「だーめ!もう決めたの!ほらはやく!」

京一は口を尖らせながらも、俺の願いを聞いてくれる。
京一、明日また大変だな。帰るだけとはいえ・・・。
満天の星と月の下で・・・たまには外もいいよなあなんて考えてたけど、
すぐになにも考えられなくなった。


3日目終了。


◆トップへ戻る◆◇最終日へ◇