俺は緋勇龍麻。
かわいいやつは男でも女でも容赦なく頂く。
ま、超カッコイイ俺様を皆ほっとかないっていうか。
食ってくれ光線を出してるから望みを叶えてあげてるだけなんだよな。
俺って優しー。
そんな俺がバイトすることになった。
近くのクリーニング屋のおっちゃんが倒れちゃって、おばちゃん一人で大変だからさ。
近所でも受けがいい俺がおばちゃん直々に頼まれちゃったわけだ。
俺は暇ってほどでもないけど部活もやってないし、
なによりバイトってやってみたかったからさ。
あまり考えもせず引き受けちゃったんだけど。
まあ思ってたより大変な仕事でちょっと後悔。
もうやだなあ、と思ってたときに、いいことってあるもんだな。
それはある日曜日。
天気がよかったので店で受付やってた俺は外行きてーなー、と思っていた。
・・・この店暇なんだよな。
客なんてほとんど来ない。
だから洗濯したりアイロンしたりするのも量が少なくて、
こんなんでやってけるのかなあとか、俺がいる意味あんのかなあとか
いろいろ考えてしまう。
そこに電話が鳴った。
「はい、ケンクリーニング店です」
「蓬莱寺ですー。またお願いしたいんですけど」
蓬莱寺・・・?京一の母親なんだろうか、明るい、オカン!って感じの声だ。
その人は慌ててる風にバケツ一杯分だとか明後日とりにいく、とか言って電話を切った。
俺が奥でアイロンかけてるおばちゃんにそのまま伝えると、
おばちゃんはちょっと困った顔をして、いま宅配は中止してるのよね・・・、と言った。
「宅配?」
「そう、量が多い人は、持ってくるの大変でしょ。働いてる人は持ってくる時間ないし。
だから、クリーニングに出すものを取りに行ったり届けたりするの」
「へー、そんなことまでやってるんですか」
「もちろん、ただじゃないけど。・・・でも困ったわねー。
旦那がいない間は中止してるんだけど・・・」
「僕行きましょうか?バイクあるし・・・」
「でも・・・」
おばちゃんは少し考えていたが、すまなさそうな顔をして言った。
「悪いけど、行ってもらえる?もう引き受けちゃったし・・・。
取りにいらしたときにでも、宅配はやってないって言っておくから、今回だけ」
「いいですよ。地図とかありますか?」
おばちゃんは奥から地図のコピーを出してきて、ここが蓬莱寺さんち、と言って指差した。
さっきの電話口の言い方からしても、よく利用しているのだろう。赤ペンで丸がついていた。
俺はその地図を受け取ると、外に出てバイクにキーを挿す。
ヘルメットをかぶろうとした俺に、店から出てきたおばちゃんが言った。
「今日はお客さんもいないし、どこかで道草食っといで。天気いいんだから」
外に出たかったことがばれたか。
俺は返事の代わりにおばちゃんに必殺の柔らかい笑みで応えた。
地図に印があったおかげで、蓬莱寺家はすぐわかった。
京一の家だよな。蓬莱寺なんて名前そうないよな。
実は、外に出たかったこともあるけど、それより京一に会いたかったってのが大きい。
京一の家でありますように。できれば京一がいますように・・・。
俺は呼び鈴を押した。
・・・出ない。
もう一回押した。
・・・出ない。
困ったな。俺が来るのが遅くてもう出かけちゃったとか?
ちょっとやけになってたくさん押した。
・・・中で人の動く気配がした。
と思ったら、ものすごい不機嫌そうな声がした。
「・・・誰?」
!! 京一だ。
「ケンクリーニングでーす。洗濯物預かりにきましたー」
俺が明るく言う。
すると、今までの不機嫌そうなダルそうな感じと一変して、すばやく鍵が開けられた。
「やっぱりひーちゃんだ・・・」
「声でわかった?」
「あ、ああ・・・」
Tシャツにトランクスという、明らかに寝起きスタイル。髪もはねてる。
目をごしごしこすりながら、俺のこと見てる京一がかわいかったので
押し倒し・・・そうになったがこらえる。
家族がいたらやっぱりまずいよな。
「京一、ひとり?」
「え・・・ああ、そうみたいだな」
「ふうん・・・ところで、入っていい?」
「え、ああ。入って・・・」
京一がなんだかぼんやりしてるのは寝起きのせいだけじゃないような気がする。
だってさ、起きたらいきなり好きな人が立ってたら、やっぱ驚くだろ?
そう思って見ると、俺の先に立ってリビングらしき部屋に入っていく京一の顔が赤い。
きっとあれだな。あんなカッコで寝癖がついてる自分が恥ずかしんだな、よりによって俺の前で。
俺はわざと京一の腕を取り、振り向かせて目を見つめた。
「なッ、なんだよッ離せよ!」
俺の手を振りほどこうとする京一の顔は真っ赤だ。
俺はそれを助長するように京一の顔を両手で包む。
「・・・ッ!」
京一はなにも言えなくなった。
俺はできるだけ心配そうな顔をして京一に言った。
「大丈夫?なんか顔赤いけど・・・熱でもあるの?」
俺にのぼせてるんだろ。
京一は無言で頭を左右に振った。
「そっか・・・ならいいけど。無理するなよ」
と言って必殺の優しい笑み。(さっきの柔らかい笑みとは微妙に違う)
京一は俺をじーっと見つめていたが、はっと我に返って下を向いた。
わかりやすいやつだなあ。
「そういやさ、ひーちゃん、なんで来たの?」
「京一に会いに」
京一が驚いて顔を上げた。
もちろん優しい顔して待ち構えてる俺。
また目が合って、また京一は赤い顔をそらした。
「ってのもあるけど、仕事」
「・・・仕事?」
「そう。クリーニング屋のバイト。洗濯物もらいに来たの」
「ああ・・・」
京一はなんだかホッとしたようながっかりしたような複雑な顔をした。
俺は内心にやりとする。
京一は俺をリビングで待たせておいて、どこかへ行き、すぐに大きな紙袋をふたつ持ってきた。
「これだと思うけど・・・」
「あ、サンキュ。枚数とかチェックして伝票書かなきゃいけないから調べていい?」
「うん。手伝おうか?」
「えーと、じゃあ、出しちゃってくれる?」
京一は無造作に紙袋をふたつともさかさまにして床に洗濯物をひろげた。
ワイシャツ、セーター、背広、スカートなどなどばさばさ出てくる。
そして最後にポトッと落ちたのは・・・トランクス(ウサギのアップリケ付き)。
京一が慌てて取ろうとする。
が、それより一瞬はやく俺が取り上げてやった。
「京一こんなのはいてんの?」
「ちょっとひーちゃん!返せよ!」
京一は真っ赤になって、俺の手からトランクスを奪い返そうと手を伸ばした。
もちろん俺は足をかけた。
京一はつまずいて・・・あわれ、俺の腕の中。
俺は両足を絡ませて京一が逃げられないようにする。
ジタバタする京一の鼻先にトランクスを突きつけて俺は言った。
「これもクリーニングするの?」
「・・・しねーよッ!間違えてそこに入ってたんだよッ!」
俺はトランクスを子細に点検した。
「ちょっ・・・なにやってんだよッ!見てんじゃねーよッ!」
「京一くーん」
俺は京一を振り返って心のままにニヤリと笑った。
たぶん、悪魔のような笑みだろうな。
京一は口をへの字にしてにらんでくる。嫌な予感がしてることだろう。
「若いねえ京一。こんなところにシミが・・・」
「なッ!」
京一はびっくりしたり恥ずかしかったりで真っ赤になって暴れた。
でも俺のホールドははずせない。
一通り暴れて疲れると、肩で息をしながら俺をにらむ、
でも俺がニヤニヤしてるから恥ずかしくて顔を背けた。
「で、誰をオカズにしてんの?」
「・・・・・・」
よりいっそう真っ赤になった顔を背けたまま京一は答えない。
「京一は、誰に抱かれたいの?」
京一は目を見開いて俺を見た。
「お、俺は・・・男だぞッ!?抱かれたいなんて・・・」
「思ってるだろ」
京一はなにか言いたげに口を開いた。
俺はその口に深くくちづけて舌を絡めた。
そして一度唇を離して言った。
「俺に抱かれたいって思ってるくせに」
京一がなにか言う前にまた舌を絡めとる。
わずかな抵抗が終わるのを見計らって全裸にひんむいた。
見ると、京一の目には涙がたまっている。
んー、そんな顔がそそるんだよな、悪いね。
俺は床に散らばった洗濯物の上に京一を組み伏せた。
大丈夫、俺うまいんだって。
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京一が2回も出したもので下になっていた洗濯物が汚れてしまった。
それらを拾い上げて、ワイシャツならワイシャツの、スカートならスカートの
数を数えながら紙袋に入れていく。
そして各枚数を記入した伝票を切って京一に渡そうとした、
でも京一は気を失っている。
仕方ないから京一にウサギアップリケ付きトランクスをはかせて
ウエストのところに伝票を挟んでおいた。
・・・ほんとはシミなんてなかったんだけどさ。
起きてからこの伝票を見てどう思うだろう。
『次回もご利用くださいませ』・・・。
俺は想像してちょっと笑った。
でもたぶん・・・
また宅配の注文が来るだろう。
今度は京一自身から・・・。
・・・宅配は中止なんだけど、京一の家にだけは来てやるかな。
俺は大きな紙袋を両手に持って、京一の家を出た。
お店に帰るとおばちゃんが、早かったのねえ、寄り道していいって言ったのに、と笑って言った。
俺は早くなんかないぞ!と思ったけどもちろん意味が違うので、
にっこり笑って、おばさん一人じゃ大変でしょうから、と言った。
おばちゃんはニコニコ笑って、龍麻くんはよく働いてくれるし、真面目だし、
性格いいし、龍麻くんが息子だったらねえ、と言った。
おしまい。
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